【あんなぁ よおぅききや】NO.07 「オー・・・和尚さん」
大寒の時期、北山から冷たい風が吹く特に冷える頃、
寒い朝から雪の道でも足袋も履かず、わらじ履きで薄い衣にあじろ笠をかぶり、
京都のお寺の修行の僧が托鉢に回られます。
「オーー…」の声も、僧によって高かったり低かったり、
お経を読むときの発声練習かと思うくらいに、すんだ声が寒い京の町に響いています。
「オーー…」の声が聞こえてくると、「オーー…の和尚さんが来はったぇ」と、
小銭をお母さんからもらって、托鉢僧の前掛けのような物の上にのせると、
袋の中にしまい、手を合わしてお礼をされます。
南禅寺さん、東福寺さん、建仁寺さんと東山の麓には総本山のお寺が多く、
毎日のように通られたものです。
「和尚さんにお金渡したか、何ていうて渡した?」
「何にも…」
「黙って渡したらあかんがな『ありがとうございます』って言うて渡すのや」
「何もしてもろてへんし、何もくれはらへんのにか?」
「そうや、『ありがとうございます』と言うのは おかしいと思うやろうけどな、違うのや。
『この町の人が健康で無事に暮らせますように』 『仏様のお守りがありますように』
『オーー…の声を聞いて悪魔が逃げていきますように』とお祈りしながら
町の中を歩いてはるのや。だから『ありがとうございます』と言うのや。
おまえ、道の向こうから泥棒が来たら、どうする?」
「逃げる」
「なんで逃げるのや?」
「怖いし、お金取られたらかなんし」
「そうや。逃げるか、持てるもん盗られんように用心するやろ。
泥棒は、他人のものを盗ったろと思てるから逃げられるのや。
オーの和尚さんは、お金をください言うて町を歩いたはるのと違う。
町の人のために、お祈りしながら歩いたはるから、お金がもらえるのや。
お金が欲しいと思ってる泥棒からは、逃げたり、お金渡さんと
『お金をくれ』言うてない和尚さんには、わざわざ家の中から出て、
『おおきに、ありがとうございます』と言うてお金渡してるやろ。
あんなぁ よおぅききや
商売もこれと一緒や。
『儲けたろ』『人、騙してでも儲けたろう』思うたら
泥棒と一緒でお金に逃げられて一銭も入らへんのや。
『他人に喜んでもらおう。他人の為になるようにしよう』
と思うて商売していたら、オーの和尚さんと一緒で、
お金の方から追いかけて来てくれるのや。
その代わり、修行中のオーの和尚さんと同じように、
他人に喜んでもらうには、冷とうても裸足で辛抱せんならんのや。
わかったか。よう覚えときや。
あっ、尼さんがうちの表に立って、般若心境を上げてくれたはる。
『ありがとうございます』いうて渡すのぇ。」
合掌