半兵衛麸のこと
半兵衛麸のこと

あんなぁよおぅききや

NO.30 ご飯茶碗

ご飯を、食べ終わってからのことです。

「このご飯茶碗は、さっきまでは、ご飯が入っていたからご飯茶碗やな。
このお茶碗に、お味噌汁を入れたら何茶碗ていう」
「おつゆ茶碗」
「そうや、もし、お茶を入れたら」
「湯のみ茶碗」
「うなぎのまぶしを入れたら」
「どんぶり」
「そうや、同じ茶碗でも、猫が使うと猫茶碗になるやろ。
立派な床の間に置いてあったら美術品に見える。
道に転がっていたら落し物、ゴミ箱に捨ててあったらただのゴミ。
ひとつのお茶碗で、使い方、おいてある場所によって名前も変われば、
値打ちまで変わって見えるやろ。

ひとつの物を見るのに、自分勝手に『これや』て決めてしもたらあかん。
たったひとつのお茶碗でも探究心があったら、いろいろなことを知ることができるのや。
このお茶碗の産地はどこか、誰の作か、どうして作ってあるのか、何の絵が描いてあるのか、
値段はいくらか、まずはそのお茶碗のことをいろいろ知ることができる。
中に入っているご飯についても考えられる。考えたらきりがないやろう」
「そうやなぁ」

「ものを見るのに、片方からだけ見んと、いろんな角度から見た方がようわかる。
そやから、麸屋をしていくには、麸を作ることや、売ることだけではあかん思うのや。
使う人の立場からも麸を見てほしいのや。

料理屋さんは、どうして麸を使うているのかを知り、どんな麸を欲しがっているのか、
これからどんな麸をつくっていったらいいのか、わからへんやろ。
そしたら、料理とはどのようなものかを知らんことには麸屋はできんことになるやろ。

まず料理の方法を知り、材料についての良し悪しをしり、料理の歴史を知り、
料理屋の経済を知り、陶器、漆器などの道具を知り、床の間や座敷の作法、お客さまへの対応を知り、
料理のあらゆることを知った上で、麸を扱うことが大事やと思うのや。」

まだ商いを再開して間も浅く、一日中麸をつくるほど忙しくはありませんでした。
麸の配達に行って、いくつもの料理屋さんが忙しいときは、手伝いをします。

「おまえは料理人になるのと違うから、料理の腕をあげんでもええのや。
あくまでもおまえは良い麸をつくるために料理の勉強をしていることを忘れたらあかん。
麸だけを見てては、一生は送れへんぇ。

あんなぁ よおぅききや

麸にまつわることはもちろんのこと、それ以外にも、いろいろなことを知ってて仕事をせんとあかん。
たかが麸やけど、されど麸屋の家にとっては、大事な大事な麸なんやから。
自分の一生は麸屋と決めたなら、よそ見をしたらあかん。死ぬまで勉強や」


合掌