半兵衛麸のこと
半兵衛麸のこと

あんなぁよおぅききや

NO.24 におい

中央市場の魚の問屋さんの息子さんが遊びにきました。
同い年の心安くしている友達で、朝早くから作業着に長靴で、毎日仕事しています。

「あの人は魚屋さんか?」
「うん、市場の仲買人さんや」
「もう一人前やなぁ、若いのに」
「お父さん、なんでわかるねん?」
「魚のにおいがプーンとする。魚のにおいが身体に染み込んだら、もう一人前や。
よその家に行くからと、お風呂に入って良い服に着替えてはるから、
自分では魚のにおいがせぇへんと思うていはるのやなぁ」

「そら、魚屋はんやし仕方ないやん」
「いや、いかん言うてるのと違うのや。魚屋はんが魚のにおいするのは当たり前や。

偉いもんや。お線香屋さんが通ったら線香のにおいがプーンとするし、
お豆腐屋さんならお揚げのにおいがするのや。

毎日その品物に触れてると、知らず知らずのうちに、においは移る。
自分の仕事のにおいは移って当たり前やし、また、においが移ったら一人前になった証拠や。
毎日少しずつ触れていたら、わからんうちににおいに慣れてしもて、それが当たり前になって、
自分のにおいがどんなんかを感じんようになってしまうもんや。

お父さんの言うてるのは、仕事のにおいの話やないのや。友達の話や。
付き合うてる友達が悪い友達やったら、悪い事をする話を聞いたり、悪いことをしているのも見る。
初めは『こんな悪いことしたらあかん』と思うていても、いつも見たり聞いたりしていると、
だんだんと慣れてくるのや。
そして、『ここまで悪いことしててもわからんし…』『ばれへんかったから…』
ばれへんかったら、『もう少し悪いことしてもばれへんやろ…』と、とうとう大きな悪い事をしていても
何とも思わんようになるのが怖いのや。

そのうちに、最初の悪い事をしない良い自分がどこかへ行ってしもて、いつの間にか悪い悪い
自分になってしもうているのや。

ところが、良え友達といつも一緒にいると『良え事言わはるなぁ。良え事しはるなぁ。
僕もいっぺん真似しようかな』『良え事したら、気持ちええなぁ。もういっぺんしようかなぁ』
『良え事また言わはる。自分ももっと勉強しなあかんなぁ』
『あんな事しはった。あんな良え事もあるのやなぁ。僕もしよう』と、
だんだん良い事をする人間になっていくんや。そうして人間がつくられていくのや。

悪い人の横にいると自分も気づかんうちにそんな人になってしまう。
いつも尊敬できる人、お手本になる人と一緒にいるようにしなあかんのや。

あんなぁ よおぅききや

親は先に死ぬけど、友達は長う付き合うていくもんや。
人間、この世はいっぺんしか生まれてきやへん。せやから人生、大事にせなあかん。
良うなるのも悪なるのも、おまえの気の持ちようと、友達次第やぇ」


合掌