「衛生掃除」こんな言葉は、今日では死語となりました。 昔は、学区や町内が一斉に家中を掃除する日がありました。 町内が一斉にするから埃を立ててもご近所迷惑にならず、家族だけではできない家は 親戚や知人の手伝いを得て、大掃除の後は清々しい気分で気持ちがよかったものです。 朝から家中の畳を上げて表通りに出しお日さんに当てます。 床板をはずし風を入れて湿気を取ります。 台所のススを落として、天井を拭いて、畳を元通りに入れます。 畳が干してある横の地べたにゴザを敷いて、お昼ご飯を食べていた時でした。 「畳にお日さんが当たってるか?」 「うん、よーぅ当たってる」 「今日は良い天気やからな。いっぺんひっくり返して裏にもお日さん当てたいくらいやなぁ」 「・・・」 「お日さんの当たってるとこは、よぅ乾くやろ。裏の方はまだ湿気てるみたいやなぁ。 よぅ見てみ、日がよぅ当たってるところがある分だけ、当たらん陰のところががあるやろ。 表があったら、それと同じだけ裏があるのや。 「そらそうやん」 「そらそうやんてで、何でも当たり前と、簡単に片づけてしもたらあかんがな。 お日さんが当たらん陰の方かて、いっぺんお日さんに当たりたいなぁ、と本心は思うてるかもしれんのや。 この陰は、お日さんに当たりたいけど辛抱しているのや。 『まぁええわ、私はお日さんに当たらんでも、私さえ辛抱してたら反対側はお日さんに当たって、 ポカポカと気持ち良う楽しんで、きれいにならはるのやさかいに、私は犠牲になったげたらええわ』と思うてるのや。 お日さんの当たってる方は、お日さんはみんなに当たってると思うて、陰のあるのを知らなかったり、 私は偉いからお日さんに当たっているのや、とか思うたらあかんのや。 自分が気持ちの良い分は、誰かが気分悪うても、辛抱してくれる人がいはる。 それをよう知ってんとあかんのや。 そんな陰でご苦労されて、辛抱してはる人がいはるさかい、自分は良え目にあっているから、 感謝する時に『お陰さんで』と言うのや。 『どうです。大掃除片付きましたか?』 『へぇ、お陰さんで』は、陰で一生懸命働いてくれた人によって片付き、きれいに光りました、 ていう意味や。わかったか?」 「お陰さんで」 「ワハハ、お父さんも言うた甲斐あるわ。 あんなぁ よおぅききや 自分が光っている時は、陰に回っている人に感謝して、ねぎらわなあかん。 時には自分が陰に回って、他人さまに光ってもらわなあかんのや。 『お陰さんで』と、感謝の気持ちが言えるようにならんとあかんし、 『お陰さんで』と、感謝してもらえるような人にならなあかんのや。わかったか。 さぁ、一服もしたし、あとひときばり。畳をひっくり返して掃除早よ済まそうか」 合掌