半兵衛麸のこと
半兵衛麸のこと

あんなぁよおぅききや

NO.19 坂道

清水さんへお参りに行った時のことでした。

「おとうさん、坂ばっかりでしんどいやん」
「もうちょっとや、がんばり」

やっと清水寺の舞台についた時に、

「比叡山や富士さんでも、どんな山でも、いつまでも上りばっかりやない。
上りがあったら必ず下りがある。下りも、いつまでも下りばっかりが続くのやない。
いつかは平坦な道になるか、上りに変わるもんや。

あの西山を見てみ。山かて、上がったり下がったりしているやろ。
お商売も坂道と一緒で、良い時も悪い時もあるのを覚えておきや。

商売の良え『上り坂』の時はうぬぼれんようにして、地道に頑張っていたら、
そのまま上りで何とか続くけど、生意気なことをしたり言うたり、油断してると、
『下り坂』を自分で作ってしまうことになるのや。
『下り坂』になると、『貧(ひん)すれば、鈍(どん)する』言うて、何してもあかん。

いっぺんに取り戻したろう思うて、焦ったら焦るほど、悪うなっていくのや。
自分で下り坂やなぁと気が付いたら、まず自分のしていることを反省して、
もう一度改めて足元を見ることや。

自分が今、どのような状況にあるか、どのような立場にいるのか、
自分の状況がわからないではどうしょうもない。

例えば、崖の上にいるのに目隠して暴れているかもわからん。
自分のこと、世の中の流れ、世間との兼ね合い、自分の甲斐性や能力を正確に知ることや。

そしたら、自分の悪いところに気がつく。
悪いところがわかったら、どう直したらよいかを考えたらええ。
真面目に歩いているうちに、自分にだんだんと力がついてきてまた商売も上り調子になってくるのや。

反省もせず、何の手当てもせずにいたら、いつまでたっても下り坂のままや。

あんなぁ よおぅききや

坂も『上り坂』と『下り坂』だけやないぇ。
世の中には『まさか』ていう坂もあるのや。この坂が一番怖い。

真面目に商売をしてて、お客様にも喜んでもらえる品物を作って、世の中のためにも、
他人のためにも尽くしている。
信用もあるのに、『まさかの坂』だけは、自分の力ではどうすることもできないことがあるのを、
忘れたらあかん。

『まさかの坂』はどんな形でいつ来るかわからんから、厄介なんや。
うちも、まさか戦争が始まって商売ができんようになるとは思わんかった。

これが『まさかの坂』や。

だけど、坂の途中に立って、下り坂を落ちそうになっていても、反対向いたら上り坂や。
ものは思いようで、下りが上りに変わることがある。
真面目にやっていたら、いつかは上りが必ず来る。お天道さんがよぉう見たはる。

坂の上りはしんどいけど、商売の上りはええもんや。
お参りも済んだし、ボチボチと帰ろうか。
走ってこけんときや。まさかになるぇ。」

合掌