半兵衛麸のこと
半兵衛麸のこと

あんなぁよおぅききや

NO.13 行水の桶

夏は、大きな桶の中にぬるいお湯を入れて、肩にお湯をかける「行水」という簡単なお風呂に入りました。
行水で汗を流して、ポンポン(ベビーパウダー)を、おでこや脇にはたいて真っ白になり、
浴衣を着せてもらいました。
食糧難の時代で、物資は乏しかったのですが、まだ人の心に余裕と豊かさがありました。
冬の間ずっと使わずにいた木製の桶ですから、カラカラに乾いていて隙間ができ、
水が全部漏れてしまいます。
「なにしてんのん」
「ボチボチ暖こうなったんで行水ができるから、桶の水漏れ直してんのや」
「アッ、ここも漏れる、こっちも漏れてる」
「早よバケツに水汲んできて、入れてんか」

家の中に、井戸の手押しのポンプがあり、何杯水を汲んで運んでも、
桶の水漏れは止まりそうもありません。

「水を入れても入れても桶がへしゃいでるし、たまらへんわ」
「いっぺんには止まらへんわいな。桶の水が少のうならんうちに、水を汲んで入れときや」
「……」
「どうや、まだたまらんか?」
「まだあかんわ。ここはにじむだけになったけど、こっちからいっぱい水出てくるわ」
「この桶より大きい桶があったら、つけといたらええのや。
それもできひんしなぁ。もっと水運んでんか」
「もうしんどなった」

「ほんなら、ちょっとここに座って一服したらええ。
昔、お父さんが小さい頃、麸をつけとく桶が水漏れした時に、今みたいに井戸水を汲んで直してたら、
お祖父さんが『入るを計り、出るを制す』言うて教えてくれはったんや。

まず、どうしたら水を次々と入れられるかを考えなあかん。
せっかく入れた水を、どうして外へ出さんようにするかも考えんと水はたまらへん。
なんぼ水を入れても、穴が開いていたら、穴から水がどんどん抜けてしもてたまらへん。
穴をふさいだら、すぐにたまる、ということや。
大きな隙間のとこにタオルを当てといたら、いっぺんに水が出やへんから早よ水が漏れんようになる。
ちょっとでも水漏れを先に少のうすることや。
何でもない当たり前のことやけどな。これがなかなかできひんのや。
おまえみたいに、何の手当てもせんと、しんどいさかいて休んでたら、ホレ見てみい。
もう桶の水は空っぽや。
また乾いて、たくさん水が漏れるようになるぇ。

あんなぁ よおぅききや

商いも一緒やお客さまからお代金をもろて、無駄遣いという穴が開いていたら、お金がたまらへん。
また、お金があるから、ええわ、ええわで使うてたら、入らんようになった時に困るんや。
お祖父さんは、お金が入ってくる道をちゃんと開けといて、出て行く道は、ふさいどかんとあかんて
教えてくれはった。
いつお金がいるやわからんから、常にちゃんとためとかなあかんのや。
桶の水は入れた量全部漏れても後はもう出やへんけど、お金は入る以上に使うてしもたら、
後には借金が残るのや。
そやからお金は怖いんや。
しんどうても、頑張って水を汲んできいひんかったら、なかなか行水できひんぇ」

合掌