半兵衛麸のこと
半兵衛麸のこと

あんなぁよおぅききや

NO.10 鴨川の水

今夜も暑苦しくて、鴨川へ夕涼みにやってきました。

「昨日来た時と今日と、何か変わったとこないか?」
「何も変わってへん」
「やっぱり何も変わってへんか。
よーぅ見てみぃ。どっか変わってるやろ」
「川はあるし、家もそのままや。
昨日も停電してたし、今日も電気ついてへん」

「そうやなぁ、昨日見た景色と今日の景色は、見た目は同じや。
けど、昨日と違う水が流れてるやろ。この鴨川の水は、何千年と昔から
流れているけど、いつも新しい水が流れている。同じ水は一度もないのや」
「そら、上から違う水が流れてるやん」
「そうや。水は常に変わってるけど、鴨川という川は変わらんのや。

うちの家も、代々麸屋をやって、麸屋という本質は変わらんのや。
けど、水と同じように、作っている麸はどんどん変わっているのや」
「変わってんのか?」
「そうや、小麦を石臼で挽いた粗い小麦粉が材料やった。

明治になって、外国からメリケン粉が入ってきたり、粉を挽く良え機械が入ってきて、
粉のキメが細かくなってきて、できる麸の種類も増えたんや。
その時の材料によっても変わってくるし、お客様の好みが変わったら、あわせなあかん。
食べ方もその時代によって違うし…。
麸作りという本質は変わらんけど、時代とお客様の好みに合わして、作る麸を変えんとあかんのや。

車かて、昔は駕籠の中に人が乗って担いでたんが、人力車ができて、次には自動車ができた。
今でも『わしは駕籠が良え』言うてはる人は一人もいやへんやろ。
『車は故障んだら動かへんし誰でもが運転できひんから人力車の方が良い』と
いってた人力車屋はなくなってしまった。
自動車のタクシー屋に替わった人は今もがんばったはる。これも時代の変化や。
その時代、その時代に合わしたことを考えて挑戦していかなあかんのや」
「新しい事を考えんとあかんのやなぁ」

あんなぁ よおぅききや

『しにせ』を漢字で書いたら『老舗』。老人の老に舗と書くけど、
しにせは老いたらあかんのや。舗が老いたら死を待ってつぶれることや。
『老舗』やのうて、『新舗』でないとあかんのや。
新しくできたての店のつもりで、いつも商いをせんとあかんのや。

世の中もだいぶ変わって、物がよう出回るようになってきた。
そのうちに商売も再開できるやろう。
うちは代々、麸のお陰で生活して暮らさしてもろうてる。
けど、また商売を始められるようになっても老舗や思わんと、新しい店を出した初代のつもりで
商売を始めなあかん。
うちの商いの心構えだけは間違えんようにしなあかんのや。

お客さまの喜ばれる麸をつくる。人さまのお役に立つような商いをする。
鴨川の水と同じように、商いの本質を忘れんといつも新しい水を流したらええのや。

見てみ、大きなお月さんが清水さんの上に出たはる。
悪い事をせんと真面目に生きてたら、いつでも味方をしてくれはる。
ちゃんと見てござる。きっと味方してくれはるさかいになぁ


合掌