半兵衛麸のこと
半兵衛麸のこと

あんなぁよおぅききや

NO.08 兎と亀

幼い頃、父と私は同じ布団で、姉や妹は母と共に、家族が一緒になって
一つの部屋で寝ていました。
寝る前には、父がよくお伽噺をしてくれました。
「むかし、むかし あるところに…
兎さんが、亀さんに言いました。
『山の向こうに、どちらが先に行けるか、かけっこしようよ。』
ヨーイドン。
兎さんはピョンピョンと跳んで行き、亀さんはゆっくりとしか歩けず、
すぐに大きな差がつきました。
兎さんは、亀さんがあまりにも遅いので、
『ここらでちょっと一休みしよう』とグーグー寝てしまいました。
亀さんはオッチラ、オッチラ休まずに歩いて、寝ている兎さんを追い越し、
とうとう亀さんが勝ちました。
兎さんは油断をして昼寝をしていたので、負けてしまいました」
「兎さん、寝ぇへんかったら、勝てたのになぁ」
「そうやなぁ。兎さんの方が足が速いから、兎さんが勝つのはわかって
いるのに、亀さんは負けるの知ってて、なんで競争したんやと思う?」
「・・・」
「それはなぁ、兎さんは、亀さんとどちらが先に山の上まで行くかを競争したんや。
兎さんの相手は亀さんやったけど、亀さんは負けるのを知っているから
兎さんと競争するのではなく、自分が山の上まで頑張って行くことに挑戦したんや。」
小学校低学年の私には理解ができませんでした。

中学生になって再び父に聞いてみたところ、
「兎さんの相手は亀さんで、亀さんの相手は亀さん自身で、自分と戦ったんや。」
兎さんは、成績の悪い人を相手にして勝ってると喜んでいたり、運動会で走りが
一番遅い人に勝って自慢するのと同じや。

亀さんは毎日休まずに学校へ行こう、毎日漢字を十づつ覚えよう、
百メートル13秒で走れるようになろうと、自分で目標を立てて一生懸命練習するのと同じや。

また、亀さんは一度も山に登ったことがないから、苦手な山登りに挑戦したのや。
おまえも自分で決めたことは必ず守る、約束したことは、まず自分が守る、
自分が自分に負けないこと。自分に勝てんとどうして他人に勝てるんや、
自分が自分に挑戦するうちに、人からも信頼されるようになり、信用され、
また自分自身がだんだん強い心を持った人間になっていくんや

あんなぁ よおぅききや

 亀さんが自分自身と戦うのは、それでええ。それで立派な亀さんや。
けどな、亀さんは寝ている兎さんを追い抜く時に、
『兎さん、そんな所で寝てたら風邪ひくよ、競争で私に負けるよ』と、
油断している亀さんを起してあげるくらいの優しさと寛大さがあったら
もっと良えのや。自分に厳しく、人には優しくの心を持たんとあかん」

「そしたら、負けるやん」
 中学生の私には、またわかりませんでした。


合掌